著者紹介


岡部明子

建築家、建築ジャーナリスト。東京生まれ。
85年3月、東京大学工学部建築学科卒業後、87年5月まで磯崎新アトリエ(バルセロナ)に勤務。その後、日本に戻り89年3月には東京大学大学院建築学専攻修士課程修了し、再びバルセロナに行く。90年12月、堀正人とHori & Okabe architects を設立し、建築ほかデザイン全般を手掛けるとともに取材執筆を続け、『日経アーキテクチュア』『造景』などに寄稿する。96年より堀アーキテクツと改称、東京に戻る。

まえがき



 スイス、フランス、ドイツ、イギリス、スペイン、ポルトガルを回り、一五人あまりの建築家をそれぞれの事務所に訪ねて、直接彼らと会ってインタビューした内容が、本書のベースとなっている。それらが“縦糸”だとすれば、“横糸”をなすのは各章に掲げられたテーマだ。
 これらテーマの設定にあたっては、建築的傾向による既成のグルーピングではなく、現実の社会問題との接点を重視した。この取材では、竣工写真中心の洗い清められた建築の虚像ではなく、現実の社会問題に根を下ろした泥のついたままの建築の実像を伝えたいという想いが最初からあった。その裏を返せば、具体的に建築という実体のあるものについて語ることによって、ありのままのヨーロッパに迫ろうというねらいもあった。美化されてもいなければ問題点が誇張されてもいないヨーロッパの都市像を浮彫りにしてみたかった。
 したがって、6、7、8章では、建築単体より歴史都市や現代都市に対する建築家のスタンスに焦点をあて、2、3章ではコンピュータやエコロジーの問題をとりあげ、人類にとって一〇〇〇年に一度の転機を示すような課題に対して、建築家としてどう取り組もうとしているのか、彼らの発言から探る試みをした。さらに4、5章では、階級社会や地域主義などヨーロッパ特有の問題と建築との関係をとりあげた。
 全九章のうち六章は、日経アーキテクチュア誌で連載された『世紀をまたぐ欧州建築家群像』をもとに加筆したものである。
 それぞれの章末には、各テーマと関係の深い建築家の短いインタビューが添えられている。ここでは、建築家というひとりの人に迫り、ありのままの姿が見えるようにしたいと思った。とはいえ、共有した時間はたかが二時間程度だから、その限られた時間で私が個人的に受けたイメージを素直に伝えることに徹した。
 EU再編の動きはグローバル化へむかう世界の縮図でもある。その荒波の中でユーロ建築家たちが現在考えていることを知ろうとする本書の試みは、いっけんヨーロッパに限定された話のようでありながら、これからグローバル化が進展して日本の建築家たちはどのような新しい状況に置かれるようになるのかを探ることでもあった。

岡部明子




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