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〈建築学テキスト〉建築製図

建築物の表現方法を学ぶ


  ま え が き

 かつて,知人の令嬢が所属する市民劇団の公演で「アンネの日記」を鑑賞したおりに,一種の職業病のためか,演技そっちのけで舞台装置に興味を惹かれ見入ったことがある.後日,書棚の隅に追いやっていた文庫本をとりだして読み直してみた.わずか13歳で外界と遮断された世界で暮らす彼女が,自らと語りながら「隠れ家」について書き綴った文章から,その閉ざされた空間を改めて思い浮かべるためである.目的は異なるが,“かたち”あるものを第三者に正確に伝えるということは,なかなか難しいことである.
 本書を手にする学生諸君の多くは,今までに複雑な図面を描いた経験が無いかもしれない.慣れない製図用具を使って,設計製図の基本的な作法を修得するには,それなりの心構えと覚悟が必要である.本書の執筆にあたっては,建築空間の“かたち”を創造し,表現し,伝達する一連の流れを,初学者が理解しやすいように,従来と異なった切り口でより具体的にわかりやすく示すことに意を注いだ.一般に初学者向けの製図テキストは,単純なプランを模写することが多いが,建築物としての機能性のみならず,常に建築美を追求する姿勢を,建築学を学ぶ初期の段階から意識できるように,本書ではあえて秀作をとりあげた.  入門書というものは,学習が進めば不要なものとなる宿命を帯びている.諸君の学習が進み,より早い時期に本書が書棚の隅に追いやられることを願うものである.
 本書を編むにあたり,出江寛先生には快く資料をご提供いただき,取材に対してスケッチを交えながら丁寧にご教授いただき,ときには建築について熱く語っていただきました.写真をご提供いただいた澤田清ご夫妻には,ご無理を申し上げアンネ・ハウスまで足を運んでいただきました.そのほか,建築をこよなく愛した多くの先達,資料をご提供いただいた皆様,ならびに編集にご尽力いただいた株式会社学芸出版社の吉田編集長と村田譲さんはじめ編集部の皆さんに,心より感謝の意を表します.

2002年10月  著 者 一 同
 


学芸出版社
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