緑のプレゼンテクニック
建築エクステリア・造園・ランドスケープ

はじめに

 今日、建築や造園の分野においてCADの進化は目覚ましく、大学生は3年生にもなるとソフトプログラムを使いこなしパースを描いてきます。設計演習で住宅の課題を出すと設計要旨・敷地計画図・建築平面図・断面図・立面図、そして透視図などを上手くレイアウトしてきます。見栄えはプロ並みですが、実はここに落とし穴があります。学生はCADを使いこなすことにより設計ができると思っていますが、これは、デザイントレーニングを飛ばして機械の操作方法を学んでいるに過ぎず、デザインの本質論が抜け落ちているのです。
 その技を修めるには建築・造園を問わず、空間の機能と修景、時間の経過、人間の利用を読み、形にしていく訓練をどれだけ積み重ねるかが重要です。その技は、手を鉛筆の芯で真っ黒にし、何冊もスケッチブックを描き潰すことにより、少しずつ磨かれます。
 また、特に造園・ランドスケープの分野においては、多くの植物や石などのディテールを自然に表現するスケッチの技術が重要で、CADでは対応できない部分が多いのです。クライアントとの打ち合わせの場で即座に描けることも手描きのメリットです。
 既に建築の手描きパースは姿を消しつつありますが、造園の場合はそうはいきません。樹木、草花の透視図を描くCADの画はスタンプを押したようなものが多く、手描きの技には遠く及ばないのです。しかも植物には命があり、四季の佇まいが異なり、生長して石などと組み合わさることでエイジングが深まります。成長管理計画の視点から描くことが求められるのです。
 本書は、CADであれ、手描きであれ、建築エクステリア・造園・ランドスケープ・まちづくり・グリーンビルディング・グリーンデザインの分野で、魅力的な緑のプレゼンをするために求められるスケッチの技術を解説することを目的としています。緑のプレゼンに関する書籍は、住宅の庭のデザインに主眼が置かれたものは数多く出版されていますが、本書は建築エクステリア、造園、ランドスケープ、まちづくりまで、広く緑空間のプレゼンテーションをする際のスケッチを扱います。一坪の庭づくりから建物まわり、そして都市の大改造と、幅広い空間を扱っています。
 本書のスケッチを担当する柳原氏は、住宅、海外の庭園から建築緑化、国際博覧会、ランドスケープまで幅広く手がけてきたこの分野の達人です。氏のスケッチは季節感・情緒・躍動・エイジングをよく表現し、まるで風景画のような温もりを感じさせます。これは氏の才能もさることながら、豊富な経験によってスケッチの技術を修得された努力の賜物で、本書では、氏の積み重ねて来たスケッチの普遍的な技法を、誰でも学べる形でやさしく紹介することを狙いとしています。
 次代を担う造園家、ランドスケープアーキテクト、建築家などを志す若い方々の実務書、学習書、並びに学生の教材に役立てていただければ幸いです。