緑のプレゼンテクニック
建築エクステリア・造園・ランドスケープ

おわりに

 「造園は絵空事」と言われ、いわば浮世離れした世界だと考える人もいるようです。しかし、果たしてそうでしょうか。
 今日の凄まじいまでの経済優先社会は、わが国に盤石の経済基盤をもたらし、世界第三位のGDPを築きました。人々は瀟洒な邸宅・マンションに住み、海外に旅し、良い車に乗り、美味を楽しみ、愛する家族と過ごします。そのために人々は猛烈に働きました。その成果が今日の富であり、それを求める国の姿勢は今も変わりません。
 しかしながら、心身に変化を来たし、鬱病などを抱える人も少なくありません。今も名市長と親しまれている第七代大阪市長・関一(1873? 1935)は、摩天楼が並ぶニューヨークなどの先進都市を訪問した時に、ノイローゼ患者が急増していることに危機感を持ちました。関氏は、いずれ大阪もそうなるのではないかと危惧し、対策として大阪城公園を整備し、大阪城も復興しました。これこそ、大都市のど真ん中に見事な「絵空事の世界」を描いたと言えないでしょうか。
 すなわち、人間が生きていくにはオープンスペースが必要で、ニューヨークのセントラルパークは「民主主義による都市の庭」、パリのブローニェの森は「華麗なる都市への変身の原点」と言われ、今も市民は誇りを持っています。花・水・緑などによる空地、すなわちオープンスペースが人々に癒し、憩い、快適性などをもたらし、これらが人々に英気を与え、活力の原動力になることは歴史が裏付けています。
 私たちの住まいについても同じことが言えます。住宅と庭が一体化することにより家族の団欒は充実し、それが連担することによって快適で美しい町並みが造られていきます。それに加え、今日では博覧会、まちづくりまで造園の技が広がっています。
 そのテクニックを柳原のスケッチで紹介したのが本書です。私たちが伝えたかったのは、美しい画を描く技もさることながら、緑空間をつくる意義と楽しさです。
 私たちは古稀、還暦を超えても、まだそれを追いかけています。ともに大阪府立園芸高校の造園科で学び、柳原は荒木芳邦先生の薫陶を受けて作品を残し、中橋はランドスケープ設計の実務と研究に取り組んできました。その情熱と造園・ランドスケープを愛する心が読者の皆様に伝われば望外の幸せであります。
 終わりに本書の執筆におきまして、植物材料の情報に関して富士華園ご代表、溝口正孝様のご助言をいただきました。図版の整理に際しては、柳原のスケッチに憧れ、アトリエで研修を積んだ公立鳥取環境大学環境学科の甲本詩織、佐々木美祐、中山亜紀君が寸暇を惜しんで協力してくれました。ここにお名前を記し感謝の意を表します。
 学芸出版社の岩崎健一郎様におかれましては粘り強く対応していただきありがとうございました。また、前田裕資社長のご理解があっての上梓となりました。お礼申し上げます。

平成27年7月10日
柳原寿夫 中橋文夫