狭小地3・4・5階建て住宅の設計法


はじめに

 本書は、都市部の狭小地に建つ3・4・5階建て住宅(以下狭小地住宅)の設計を行うための解説書である。建築される住宅の敷地は、都心や下町などでは、一般的な10坪(33m2)から20坪(66m2)程度の広さの狭小敷地を想定している。

 このような都市部の狭小敷地に、戸建て専用住宅や併用住宅を設計するために必要な、設計監理契約までの流れ、建築法規、建築構造・工法、建築計画・デザイン、建築工事などの要点を、50のキーワードとして取り上げ、設計の流れに沿って詳しく解説している。

 特に住宅の構造形式に関しては、木造、鉄骨造、RC造を横断的に扱っているので、具体的な設計において構造を検討するシーンでは、各構造形式を比較対照しながら、最良の構造形式が選択できるように配慮した。また後半では、多くの実例を通じて、これらのキーワードが実践的に学べる構成とした。

 ところで本書で詳しく解説する都市型の狭小地住宅は、一般的な郊外型住宅と多くの点で異なっている。最も大きな違いは、都市型の狭小住宅の原型は町屋が原点になっているのに対して、郊外型住宅は、一戸建ての邸宅が原型となっていることである。
 町屋は、その住宅が集合するまちと常に関わりながら、まちと表裏一体で発展してきた住居形式である。一方の庭付き一戸建ての郊外型住宅は、一般的には周囲のまちとはあまり関係を持たずに、敷地の中で自己完結したデザインが求められる点が、町屋を原点とした都市型の狭小地住宅との大きな違いである。

 そのため、都市型狭小地住宅のデザインにおいては、まちと住宅の関係に注目して設計を進めることで、失われつつある、住宅とまちとの良好な関係を取り戻す契機になるのではないだろうかと考えている。

 その意味では、曲がり角に立っている都市型住宅の今後は、空き家住宅のリノベーションや、老朽化した住宅などの建て替えが混在する形で進行すると思われるが、どちらにしてもまちと住宅の新たな関係のビジョンを常に持って設計が行われるべきだ。

 日本の人口は、2008年をピークに減少をはじめている。また東京都の人口も2020年をピークに減少をはじめると予測されている。

 人口の減少やそれに伴う空き家問題がクローズアップされているが、区市町村ごとに詳細をみていくと、一部の区部では、2035年においても人口が増え続けると予測される地域がある。この地域は、都心や下町と呼ばれる活気あふれる地域であり、人々がこれらの地域に住むことを望む傾向が強くなっていることを示している。

 また、この地域は、戦後の高度成長期にできた木造住宅密集地と重なる部分が多い。

 この木造住宅密集地では、防災の観点から耐震性能や防火性能が優れた住宅に建て替える必要がある。そのため、東京都では、これらの木造住宅の密集地域を「木密地域不燃化10年プロジェクト」の中で、不燃化推進強化地域として指定している。また、大阪府も同様に、密集市街地整備を積極的に進めている。今後これらの地域では、住宅の建て替えが促進することが予想されるが、本書で解説している都市型狭小地住宅は、そのモデル住宅となるものである。

 高度成長期に比べて、人々が比較的自由に居住地や住宅形式を選択できる時代は、すぐそこまで来ている。そのため住まいの場所として魅力的な、都心や下町に人々が集まることが予想され、新しい時代に対応した都市型狭小地住宅が求められている。本書をそのような新しい都市型狭小地住宅を設計するための参考書として、ぜひ活用してほしいと思う。