狭小地3・4・5階建て住宅の設計法


おわりに

 この10年ほどの間に、都心や下町の狭小地に、3・4・5階建ての都市型の戸建て住宅を設計する機会が増えてきた。

 このタイプの住宅の設計を通じて感じることは、一般的な郊外型の住宅設計と、多くの面で異なっていることである。その異なっている点こそが、都市型住宅としての特質であり、それをきちんまとめてみたいと思ったのが、この本を書く一番の動機であった。

 また近年は、住宅がまちとは無関係につくられ続けているという点が、住宅設計者として非常に居心地が悪いと感じていた。このような住宅とまちとの不幸な関係は、現代の住宅が陥っている大きな問題点であると感じている。

 その理由の一つは、高度成長期には、住宅を大量生産するために、特定の地域やまちとは切り離し、汎用性が高いデザインにする必要があったことが一つの要因だと考えている。本来、まちと住宅は、切り離して考えるべきことではなく、一体のものであるという考え方が必要な時代になっているとつくづく思う。

 都市型の狭小地3・4・5階建て住宅の設計においては、まちと切り離して考えることができないと言う点で、まちと住宅の関係を、再び考えるためのきっかけになるのではないかと感じている。

 また、本書の内容の後半では、工事段階におけるウェブを使った家づくりのコミュニケーションの方法についても触れている。これは、住宅設計において、出来上がった住宅と同様に、家づくりのプロセスも重要であると考える著者の独自の考えから、本書のコンテンツに加えたものである。

 なお、本書のルーツを辿ると、大戸が設計修業時代に在籍していた大野建築アトリエにて、都市型住宅の開発や設計に携わったことであり、その経験が現在に繋がっている。その意味で所長の建築家・故大野勝彦氏には感謝の意を表したい。

 最後に本書の住宅写真の多くを、独自の視点で撮影していただいた写真家の飯村昭彦氏には、特に感謝したい。飯村氏の写真には、住宅と住人の一体的な姿が描写されており、建築家の手が及ばない、住まいのリアリティを見事に切り取ってくれている。

 また、都市型の戸建て住宅の設計に関してご理解をいただき、本書を執筆する機会をつくっていただいた元学芸出版社の村田譲氏には大変感謝している。学芸出版社の中木保代氏には、初期の構想段階から的確なアドバイスを多くいただいた。そのおかげで、ようやく本書が完成したといってもよい。あらためて、この場を借りて感謝の言葉を述べたい。