ヒルサイドテラスで学ぶ建築設計製図


 本書は、中規模のRC造ラーメン構造で、かつ複合施設の計画・設計を行うための基本事項を、槇文彦氏設計のヒルサイドテラスF棟を題材に解説したものである。

 本書は、設計製図の基本的な学習が終了した人で、大学建築学科の設計課題として初めてRC造の設計を行う人から、設計の実務についた人でもう一度実務に即した設計の知識を整理したい人まで幅広い人を対象としている。後者の人に向けては、基本設計レベルの検討を行うための知識と、平面図・立面図・断面図を書くための知識を整理している。

 代官山ヒルサイドテラスは、住居・店舗・事務所・ギャラリーなどからなる複合建築群で、東京都渋谷区の旧山手通り沿いに建っている。第1期から第5期は旧山手通りの南側に建設され、第6期で初めて旧山手通りの北側に建てられた。さらに、この第6期より北西へ約500m離れた旧山手通り沿いには、ヒルサイドウエストが建設された。

 ヒルサイドテラスにおける大きな特色として次の二つがあげられる。一つは1969年に第1期が完成してから1998年にヒルサイドウエストが完成するまで、30年もの年月をかけて槇文彦という1人の建築家により形作られた建築群であること、もう一つは、民間の複合施設ながら、プラザ、広場などパブリック性、回遊性を有する建築であることである。

 ヒルサイドテラス第6期F、G、H棟は、1992年に竣工後、約20年が経っている。3棟の中央には広場があり、この広場とF、G、H棟が一体となった計画がなされている。F棟の特徴としては、その内部を通る回遊動線が設けられ、内外部の空間が一体化された平断面構成となっており、優れた空間を形成していることが挙げられる。F棟は今でもモダンデザインとしての新鮮さがあり、時代を超えた優れた建築である。

 F棟は、住居・店舗・事務所・ギャラリー・カフェからなる複合建築で、延べ面積が5,140m2とやや大きいが、地下1階、1階、2階のパブリック系のスペースの面積が2,000m2程度で、各階が約1,000m2強という面積であり、中規模建築のケーススタディとして適している。

 以上のように、F棟は、デザインそのもの、そして街とのかかわりが優れているとともに、パブリックスペースが多いため建物内部の見学が容易であることなどから、建築設計を勉強する人にとっては、非常にお手本にしやすい建物である。是非、本書を持って実際にヒルサイドテラスを訪れ、実物を見てその空間を体験し、建築設計を勉強してほしい。

 本書をまとめるにあたり、槇総合計画事務所、槇文彦先生、福永知義様、志田巌様には、実施図面の提供、設計内容のご教授、図面データの提供、写真撮影の手配など大変お世話になりました。学芸出版社の知念靖広氏には、本書の企画段階からご助言とご尽力を、また、同社・岩切江津子氏には紙面デザインなどについてご尽力頂きました。皆様には心から御礼申し上げます。