建築ドリル
空間表現の基礎を学ぶ

この本は建築設計教育の基礎学習のための教材です。
建築設計教育はどこの学校でも通常、名作建築の図面トレースからはじまることでしょう。しかしよく考え直してみると、この図面トレース課題は非常に多岐にわたる内容を包括したものになっていて、全くの初学者である皆さんたちにとっては、予備知識なしには上手く受け止めることができなくても当然なのかもしれません。

そこでこの教材では、まずは図面の基礎に触れることと、図面を通した空間読解に関する感覚を養うことに主眼を置いて、他の要素を可能なかぎり省略して構成しています。そして、道具の用意や理解、線に対する正確な理解とその実践を飛び越えて、学習の全体像を大まかに理解するために「なぞる」という手法を採用してあります。ちょうど小学生の漢字ドリルのようにグレーで印刷されたお手本をなぞることからはじめる、ともかく手を動かしながら図面表現や空間表現の基礎、図面読解の基礎などの理解を進めようと意図された教材です。大学での授業に臨む前段階の演習教材として、あるいは自宅学習向け教材として活用されることを期待しています。

本書の前半では図面表現、立体表現の基礎をそれぞれ学びます。正しい製図法を学ぶためには、このドリルだけでは不十分ですが、建築空間の表現手法の概要を掴むためには大いに役立つことでしょう。
後半の第3 章では、建築空間の様子を図面から読み取るための基礎的手法として3 つの手法を取り上げます。製図法を理解することも重要ですが、図面に込められた意味を読み解くことは更に重要です。そのための基礎をここで学びます。そして第4 章では、実際の建築作品を題材に空間読解の実践を行います。ここでは木造、S 造、RC 造からそれぞれ前川國男自邸、ファンズワース邸、住吉の長屋の3 作品を選んであります。それぞれ特徴的な空間を持つ3 つの名作住宅の図面を、手を動かしながら読み込むことで何が見えてくるか。じっくりと取り組んで欲しいと思います。同様の学習はこの教材を離れても可能でしょう。ここでの学びを契機として、より多くの事例を学んでいって欲しいと思っています。

なお、この本には『図形ドリル』という名前の妹がいます。こちらは、本書を手に取る前に学んで欲しい、平面・立体表現など造形の基礎を学ぶ教材です。ご一読ください