伝統的構法のための木造耐震設計法

伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会 著

内容紹介

町家・民家・寺社など伝統的構法による木造建築物を設計するには、その優れた変形性能を生かすことが重要だ。本書は、石場建てを含む伝統的構法の構造や設計の考え方などの基礎知識、限界耐力計算を発展させた計算法と設計手順、事例、設計資料を掲載。新築の耐震設計、改修の耐震診断・耐震補強に役立つ実践的マニュアル。

体 裁 B5・352頁・定価 本体6600円+税
ISBN 978-4-7615-4094-4
発行日 2019/06/10
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


目次著者紹介はじめにおわりに

本編

1章 本マニュアルの概要

1.1 本マニュアルの目的
1.2 本マニュアルで扱う伝統的構法木造建築物
1.3 本マニュアル作成の背景と経緯
1.4 本マニュアルの構成と概要
1.5 用語・記号・略称

2章 一般事項

2.1 適用範囲
2.2 石場建てを含む伝統的構法木造建築物の設計法の概要
2.3 設計法と構造計画

3章 荷重・外力

3.1 荷重と外力の組み合わせ
3.2 常時荷重
3.3 積雪荷重
3.4 風圧力
3.5 地震力
3.6 荷重・外力に対する安全性の検討方法

4章 伝統的構法の構造要素

4.1 構造要素の種類
4.2 水平抵抗要素の種類
4.3 土塗りの全面壁および小壁
4.4 板張りの全面壁(板壁)
4.5 柱端部の長ほぞ差し仕口接合部
4.6 柱-横架材の仕口接合部
4.7 大径柱の傾斜復元力

5章 地震応答計算

5.1 限界耐力計算に基づく近似応答計算
5.2 耐震設計のクライテリア
5.3 準備計算
5.4 各階の復元力特性の評価
5.5 近似応答計算
5.6 偏心率
5.7 石場建ての柱脚の滑り量

6章 風圧力に対する検討

6.1 風圧力に対する建築物の安全性の検討
6.2 建築物の水平移動の検討
6.3 屋根ふき材の検討

7章 部材の検討

7.1 長期、短期ならびに最大級の荷重・外力に対する安全性の確認
7.2 個別部材の検討
7.3 柱脚の設計

8章 地盤および基礎の検討

8.1 地盤の調査結果と地盤の許容応力度の算定
8.2 軟弱地盤対策
8.3 基礎の設計と注意点

9章 新築建築物の耐震設計の事例

9.1 総2階建て町家住宅の耐震設計例
9.2 下屋付き部分2階建て住宅の耐震設計例

10章 既存建築物の耐震診断・耐震補強設計の事例

10.1 現地での構造調査・耐久性調査の方法
10.2 総2階建て町家住宅の耐震補強設計例
10.3 寺院建築物の耐震補強設計例

11章 チェックリスト

設計資料編

設計資料-1 材料に関する規定

1.1 木材
1.2 礎石
1.3 その他

設計資料-2 地震応答計算

2.1 2階建て建築物の地震応答計算
2.2 3階建て建築物の地震応答計算
2.3 柱脚の滑りを考慮した近似応答計算

設計資料-3 偏心と水平構面による補正

3.1 偏心率の計算
3.2 偏心を考慮した応答変形の補正
3.3 水平構面の剛性を考慮した応答変形の補正

設計資料-4 各層の設計用復元力

4.1 各層の復元力の評価
4.2 土塗りの全面壁および小壁
4.3 板張りの全面壁(板壁)
4.4 柱端部の長ほぞ差し仕口接合部
4.5 柱-横架材の仕口接合部
4.6 大径柱の傾斜復元力
4.7 はしご型フレーム
4.8 実験・評価方法

伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会

鈴木 祥之(立命館大学衣笠総合研究機構・教授)
齋藤 幸雄(京都女子大学・非常勤講師)
長瀬 正 (日本建築総合試験所)
寺門 宏之(京都市都市計画局公共建築部)
向坊 恭介(鳥取大学大学院工学研究科・助教)
佐藤 英佑(立命館大学衣笠総合研究機構・客員研究員)

民家や寺社建築物をはじめとして伝統的構法木造建築物は各地域に数多く現存している。それらは、地域の気候・風土等に適応して発展・継承され、特有の町並み景観を形成するなど、地域の歴史的・文化的価値を高めており、近年、その良さが再認識され、ますます注目されつつある。

このような伝統的構法は建築基準法の木造に関する仕様規定(建築基準法施行令第3章第3節木造など)を満足しないが、2000年の建築基準法改正で導入された限界耐力計算は仕様規定(耐久性等規定を除く)を適用除外できる性能規定型計算法と位置づけられ、この計算法のもと合法的に設計、確認申請がなされてきた。ところが、2007年の法改正では建築確認・審査が厳格化され、4号建築物相当の住宅でも限界耐力計算による設計では構造計算適合性判定による審査が義務づけられるなど、難しい状況に置かれることとなった。

このような状況を踏まえて2008年4月に国土交通省補助事業として「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」が設置され、2010年4月には、実務者から強い要望があった『石場建て』を含む伝統的構法木造建築物の設計法を構築することを目的として、新たに検討委員会(補助事業者:特定非営利活動法人緑の列島ネットワーク)が設置された。2013年3月には、その成果として、①簡易な計算による「標準設計法」、②限界耐力計算に準拠した「詳細設計法」、③より高度な時刻歴応答解析を用いた「汎用設計法」の3種類の設計法案の提案を行っている。

その後、国土交通省および実務者に約束していた設計法の手引書・マニュアルを作成するため、「伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会」を設置。②の「詳細設計法」案と検討委員会での調査・実験・解析的研究による多くの知見をもとに、実務者が実践的に使える設計法を目指して検討を重ねてきた成果をまとめ、石場建てを含む伝統的構法木造建築物の耐震設計法、耐震補強設計法のマニュアルとして編纂したものが本書である。

伝統的構法木造建築物が高い変形性能を有していることは、実大振動台実験や構造要素実験などから証明されている。本書では、この高い変形性能を生かすために、伝統的構法の構造的特徴を把握した上で、地震応答計算により地震時の各層の応答変形を求めて耐震性能を評価する設計法を提示している。また、柱脚については木造一般の仕様規定を前提とせず、石場建てのように柱脚の水平移動(滑り)を許容する独自の設計法を示した。このように石場建てを含む伝統的構法木造建築物の設計の考え方や手順・手法は、同じ軸組構法ではあるものの、木造の仕様規定に沿った在来工法木造建築物とは大きく異なる。
本書では、これまでにない設計法であることを踏まえて、設計法の内容を把握することができるように設計の考え方や設計に必要な事項を網羅し、解説を加えている。また、単に設計法の手順だけではなく、石場建てを含む伝統的構法について理解を深められるように、構造力学的な特徴、地震に耐える仕組み、地震応答解析の手法といった基礎知識も得られる内容としている。

本書が、石場建てを含む伝統的構法木造建築物の新築時の耐震設計、既存建築物の改修時の耐震診断・耐震補強設計の解説書・マニュアルとして、伝統的構法に関わる実務者や確認検査機関等にも広く活用され、確認申請・審査の円滑化に寄与し、また大工・左官など職人の技の継承と育成が促進されるとともに伝統的構法木造建築物が未来に引き継がれていくことを願っている。

伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会

委員長 鈴木祥之

本マニュアルは、石場建て構法を含む伝統的構法木造建築物の耐震設計・耐震補強設計を限界耐力計算に基づいてより高い耐震性能を確保できることを目的として編纂された。

これまでの経緯を述べると、2000年の建築基準法改正により、伝統的構法木造建築物を合法的に設計することが困難になり、伝統的構法は危機的状況に陥った。一方で、法改正に伴って新しく導入された性能型設計法の一つと位置付けられた限界耐力計算を用いることで合法的に設計することが可能になった。そのため、伝統的構法に限界耐力計算を適用するための手法を検討し、『伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル ―限界耐力計算による耐震設計・耐震補強設計法』(学芸出版社、2004年)を出版した。このマニュアルおよび多くの具体事例を用いて講習会など(2002~2004年)を全国で実施したが、関心は非常に高く多くの関係者が受講し、マニュアルにしたがって設計した伝統的構法の確認申請が下りるようになった。

しかし、耐震偽装事件を受けて2007年に再度建築基準法が改正され、確認申請・審査が厳格化された。限界耐力計算による場合は規模の大小を問わず新設された「構造計算適合性判定」の対象となり、伝統的構法の設計は、実務者にとって一段と負担が大きくなった。

このために、実務者の負担を減らし簡易に伝統的構法を設計できる設計法の開発を望む声が関係者の間で強まり、「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」(以後、検討委員会)が国土交通省補助事業として2008年度に設置されたが、石場建てを含む伝統的構法の設計法に対応するため、2010年度に改めて「検討委員会」が設置され、石場建てを含む伝統的構法の設計法を検討してきた。

その成果として、3つの設計法案(標準、詳細、汎用)を2013年3月に提案した。このうち標準設計法案は対象とする建築物を4号相当に限定することで、仕様規定と簡易な計算により設計可能な設計法として作成された。また法的にはこの内容を告示化することで飛躍的に実務者の負担を減らすことができ、伝統的構法復活の起爆剤になることが期待されたが、実現しなかった。

その後、検討委員会で得た成果を生かすために「伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会」を設置して、「詳細設計法(限界耐力計算を用いた設計法)」を基本にして、2004年に出版したマニュアルで検討が不十分になっていた事項や課題になっていた事項を含めて、具体的には主として以下に示す事項について検討を行った。

(1) 限界耐力計算は、近似応答計算法で多質点系を1質点系に置換して応答を求めるが、これを可能にするためは、剛床仮定の成立が基本条件となる。しかし伝統的構法は水平構面(屋根や床)がその仕様から地震時に大きく変形するために剛床仮定が成立しない。特に下屋付き部分2階建ては全体が複雑なモードで振動する場合があるために補助的手段としてゾーニングの手法を提案している。この手法は工学的判断が重要になるので、具体的事例も参考に慎重に適用することが望まれる。

(2) 現行の偏心率は剛床仮定を前提に弾性時の剛性に基づいて計算しているが、伝統的構法では構造要素によっては復元力特性が負勾配になることもあって、安全限界時には偏心率が大きくなる場合がある。さらに水平構面の変形を伴うために非常に複雑になるが、この問題に対応するため、損傷限界時と安全限界時の2段階で偏心率を計算し、0.15以下となることを確認することとしている。熊本地震で住人が「捩じれるように倒れた」と証言しているように、偏心が大きいと耐震性能を著しく低下させる場合があり、できる限り小さくすることが望ましい。

(3) 石場建て(柱脚の水平・上下の移動を拘束しない)は柱脚固定の場合との振動台での比較実験により、建物の応答を低減する効果があることが確認されている。このため巨大地震に対しても有利であり、ぜひ推奨したい工法であるが、柱脚が礎石から落下しないか落下しても安全性を確保できる手法が必要になる。このために最大滑り量の設定や推定方法を提案しているが、地盤変状や擁壁の崩壊などがなければ、実大振動台実験や大地震時後の調査等により柱脚の移動はそれほど大きくないことがわかっており、仮に礎石から柱脚が落下した場合でも設計を工夫すれば解決できる問題でもある。柱脚が滑らないまたは滑りを考慮せずに設計されている場合でも、震度6強の地震に対しては落下の可能性は少ないと言える。ただし、近い将来発生が確実視されている南海トラフ地震の影響が大きい地域や近くに震度7の地震が起きる可能性がある断層帯がある場合には、礎石の大きさや設置方法を慎重に検討する必要がある。また、ダボ筋等により柱脚の水平動を拘束する場合では、柱脚の浮き上がりが関係するため、柱が抜け出し大きな水平移動を生じている事例もあるので注意を要する。柱脚の浮き上がりについては、構造力学的な解明が不十分で今後も検討が必要である。

(4) 上下階のバランスを考慮した設計に関連する課題として、1階・2階の剛性、耐力と各層の最大層間変形角の関係を検討し、1階・2階の最大層間変形角をほぼ同じにすることで1階の応答を小さくすることができるが、この近傍は設計パラメータによって応答が著しく変化するため、計算自体の精度を考慮して、近似応答計算法の手法を適切に選定し、安全側の設計となるよう配慮している。

(5) 設計用復元力に関連する課題として、伝統的構法で用いられる構造要素の実験、実大振動台実験などによる実験的検証を行って、設計に不可欠な構造要素の設計用復元力特性などを評価し、提案している。主要な構造要素を網羅しているが、まだ十分検証されていない多くの構造要素が残されている。今後、実験的検証などにより評価された構造要素については追加を予定している。また、国土交通省補助事業「伝統的構法データベース検討委員会」が主として検討委員会での実験結果をもとにデータベースの構築を行っているので、参考になる(「伝統構法データベース」http://www.denmoku-db.jp/)。

以上のように、「詳細設計法案」をベースにさらに検討を加えて作成された本マニュアルが、石場建てを含む伝統的構法木造建築物がより高い耐震性能を持つために活用されるとともに、関係する職人の育成が図られ、伝統的構法が未来につながることを願っている。

今後、伝統的構法をさらに継承・普及させるためには、本マニュアルを活用した設計事例による検証とともに、実務者の負担を減らすために本マニュアルの簡便化を図ることが必要である。また、4号相当の建築物を構造計算適合性判定の対象から除外するとともに、標準設計法案の見直しにより告示化することが望まれており、伝統的構法に関わる実務者等が中心になって伝統的構法のための簡易な設計法の再構築が検討されることを望むものである。

伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会

副委員長 齋藤幸雄

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