建築家のためのウェブ発信講義

アーキテクチャーフォト・後藤連平 著

内容紹介

ゼロから仕事をつくるためのプロモーション、社会を巻き込む建築理論の構築、施主候補との信頼関係を築くコミュニケーション。建築家9名がウェブ上で打ち出す個性的な実践を手掛りに、読者各々の目的に合った情報発信の方法を丁寧に指南。建築メディアに精通する著者によるSNS時代ならではの新しい「建築家」行動戦略!

体 裁 四六・224頁・定価 本体2100円+税
ISBN 978-4-7615-2670-2
発行日 2018/04/10
装 丁 UMA/design farm


目次著者紹介はじめにおわりに書評イベント正誤情報読者レビュー
はじめに 建築家がウェブで発信することの可能性

1章 アーキテクチャーフォトというメディアでの気づき
1 建築家自らのウェブ発信に可能性がある
建築家とメディアの関係を俯瞰する
ウェブ発信は「学問としての建築」と「ビジネスとしての建築」の両方に活用できる
「良いものは発信しなくても伝わっていく」という考え方に思うこと

2 アーキテクチャーフォトというメディアでの気づき
建築家とウェブの現在
建築メディアの運営から見えてきた、建築家がウェブ発信ですべきこと
ウェブメディアを立ち上げた理由
地方で立ち上げたサイトが27万ビューになるまでの経験
無料が前提のウェブで、ビジネスとしても成立させる
建築と社会の関係を視覚化するメディア

2章 ウェブ発信の技術 理論編
オリエンテーション 知っておきたいウェブの基礎知識
建築家のためのウェブ発信ツール選び
SEO のテクニックや表面上の美しさは本質ではない

第1講 建築家はウェブとどのように向き合えば良いか

1  建築設計とウェブ発信は似ている
建築設計の考え方でウェブサイトを運営する
設計の思考法がウェブ発信に応用できる
敷地を調査して設計するように、ウェブの流儀を調査して発信する
動線という考え方はウェブ発信でも有効
“裏付けを取って設計するように、慎重に調べて発信
することは信頼につながる”

2  個性と強みを活かした発信をしよう
建築家は何を発信するべきか
自身の価値を理解していない建築家も多いという実感
活動を俯瞰して他者と比べることで強みを見つける
自身の強みを見出す「ブランディング」という考え方
当たり前と思っていることにも価値はある
ウェブなら作品以外の自身の良さもアピールできる
「建築の表現」と「ウェブ発信」を一致させる

第2講 ウェブ活用のための3カ条

1  継続に勝るものはない
継続が前提の世界
一にも二にも継続。自分ができることから逆算して発信内容を考えよう
「楽」にできるという視点が重要

2  「ファンづくり」という視点を持つ
ファンの心を掴むことが、大きなメリットを生む時代
仕事を依頼するのは、あなたの「ファン」だから
ネットでは広範囲での「ファンづくり」がだれでもできる
「ファン」を増やすことはウェブ上での営業活動でもある

3  信頼される発信を心がける
信頼されることが一番大事なこと
過去の発言のストックから「信頼できるかどうか」を読みとられる時代
数字だけを稼ぐことは実は簡単
配慮のない発言は炎上につながることも

第3講 価値を発信するための思考法

1  情報は受け手に合わせて編集する
だれに届けたいかで発信の仕方は変わる
単語の順番を考えることは、建築の動線を考えるように重要
情報の受け手が知りたいことを発信する
自分が伝えたいことは、全体のバランスを見て発信する
様々な価値感を良し悪しではなく違いと考える

2  戦略的に「言葉」を選ぶ
ワード検索の仕組みを理解する
Instagramのタグを観察するとクライアントの世界が見えてくる
同じ作品でも伝える言葉で受け取られ方は異なる

3  移り変わる社会の変化を意識する
常に社会は移り変わる
発信された情報と、受け手の反応の関連性を観察し学ぶ
自身の発信への反響から社会の見方を予測する

3章 ウェブを使いこなす建築家たち 実践・分析編
実践から学ぶウェブの使い方

第4講 藤村龍至さん(RFA) 東京都|思考をブラッシュアップし社会と連鎖するTwitterの使い方

メディアも設計する意思を持つ建築家
SNS上で行う小さな思考実験
ウェブ上に自身の作品の批評空間を生み出す
フォロワーを巻き込むことで関連性を生み出す
│実際にお話を伺って│

第5講 堀部直子さん(Horibe Associates) 大阪府|潜在的なクライアントとつながるためのInstagramアカウント

Instagram を使いこなす建築家
未来のクライアントにアプローチするハッシュタグの使い方
建築を伝えるための写真を、Instagram に最適化する
│実際にお話を伺って│

第6講 連勇太朗さん(モクチン企画) 東京都|アイデアを拡散し、事業を具現化するプラットフォーム

建築の力を一般社会の中で活かしたいという意志を持つ建築家
建築家がポータルサイトを運営するということ
一般目線で考えられたレシピの名称
│実際にお話を伺って│

第7講 伊礼智さん( 伊礼智設計室) 東京都|建築作品と手料理を等価に扱い、ライフスタイルそのものを伝える

生活への深い眼差しを持った建築家
作品写真と料理の写真をフラットに扱う
十年以上、継続更新されているブログ
自身のフィルターを通して発信することで世界観が生まれる
│実際にお話を伺って│

第8講 佐久間悠さん( 建築再構企画) 神奈川県|法規を切り口に。強みを活かし建築の新しい分野を開拓する

「法律の専門家」という活動に合わせて自身を変えていった建築家
「法規」という切り口で自身をプレゼンする
自身の活動に合わせて変更された事務所名
皆が知りたい法規についての解説をブログで発信すること
コンプライアンス意識の高まる現代社会に対応する
│実際にお話を伺って│

第9講 豊田啓介さん( noiz architects ) 東京都|テクノロジーの今を伝え、隣接分野を巻き込むパイオニア

現代テクノロジーに精通する建築家
テクノロジーの情報をキュレーションすることが自身の建築の理解に
異分野の中で「建築家」としての存在を確立する
共感者を集める率直で説得力ある発言
│実際にお話を伺って│

第10講 渡辺隆さん( 渡辺隆建築設計事務所) 静岡県|自身のパーソナリティを伝え、ファンと接するブログ発信

地域でファンを増やし続ける建築家
人柄の良さを可視化し、未来のクライアントに安心感を与える
自身の「好き」を発信することは、自分のファンを増やすことにつながる
│実際にお話を伺って│

第11講 相波幸治さん(相波幸治建築設計事務所/シモガモ不動産) 京都府|建築家・不動産会社・ホームインスぺクション、三者三様の発信チャンネル

三つのチャンネルを持つ建築家
建築家・不動産会社・ホームインスペクターの三つのサイトでクライアントと出会う
同じ素材を、対象者の違いに合わせて編集する
│実際にお話を伺って│

第12講 川辺直哉さん( 川辺直哉建築設計事務所) 東京都|訪問者を楽しませるオリジナルなサイト開発

賃貸集合住宅という強みを持ち、独自の発信をする建築家
自身の活動を客観的な視点で見せる
新鮮な情報を最大限に伝えるサイト構成
自身の活動にあったオリジナルのカテゴリーをつくる
│実際にお話を伺って│

おわりに 「建築」と「建築家」をサポートするために
謝辞・参考文献

後藤 連平(ごとう・れんぺい)

architecturephoto.net編集長。1979年静岡県磐田市生まれ。 2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織系設計事務所勤務の後、2007年小規模設計事務所勤務の傍ら、architecturephoto.netを立ち上げる。現在architecturephoto.net主宰。たった独り地方・浜松ではじめた小さなメディアを、建築意匠という特化した世界で、月平均24万ページビュー以上(最高27万ページビュー)にまで育て、現在では、ひと月1万人以上が訪れる建築系求人サイト「アーキテクチャーフォトジョブボード」、古書・雑貨のオンラインストア「アーキテクチャーフォトブックス」の運営までを手掛ける。

建築家がウェブで発信することの可能性

「このホームページを、このように改良したら良さがもっと伝わるのに」
「この切り口で情報を発信すれば、もっと社会で注目を集めるだろうな」

インターネットが普及し、大多数の建築家が情報発信のためにウェブを活用する時代になりました。

日本中・世界中の建築家がホームページやTwitter、Instagram などのSNSを活用して、自身の作品や考え方を広く届けようと試みています。私は建築系ウェブメディア「アーキテクチャーフォト(http://architecturephoto. net)」を立ち上げてから10年間×365日、毎日彼らの発信を見てきました。

その経験の中で気づいたのは、自身の建築家としての「良い部分」を客観的に理解して、それを「適切な方法」でウェブ発信できている方はそう多くない、という事実でした。

それと同時に思ったのです。

アーキテクチャーフォトの運営で培ったウェブ発信の考え方・方法論の中には、建築家の皆さんそれぞれのウェブ発信においても役立つものがたくさんあるはずだと。

建築家が、ウェブを有効に使い、建築業界の内外を問わず届けたい情報を届けたい場所に、適切に届けられるようになってほしい。それが本書を執筆した目的です。

そして、建築家のウェブ発信が改革された先には、建築家の存在がより認知された社会が待っているとも思うのです。

こんにちは。アーキテクチャーフォトというウェブサイトを主宰している後藤連平と申します。ご存じでない方に簡単な自己紹介をさせていただきたいと思います。
アーキテクチャーフォトは、私が2007年に設計事務所勤務の傍ら、個人的なプロジェクトとして立ち上げた、建築意匠の情報を中心に扱うウェブサイトです(現在は、アーキテクチャーフォトの運営に専念しています)。

2017年を振り返ってみるとアクセス数の月間平均は、約24万ページビューを超えています。この数字は、世の中の一般的な情報を扱うサイトと比べると少ないかもしれませんが、日本国内で建築意匠という専門的な分野を取り扱うサイトとしては、とても大きな反響であると自負しています。

サイトでの主な活動は、世界中のウェブサイトの中から今見るべき建築情報をピックアップし、独自の視点を加えリンク形式(世界中のどのようなウェブサイトでもURLを貼りつけることで、その情報を一瞬で閲覧することができるようになる、ネット世界で特徴的な仕組み)で紹介すること、建築家の方々と直に連絡を取り合い、作品の資料を提供していただき、特集記事として紹介することなどを行っています。また、アーキテクチャーフォトジョブボード(http://job. architecturephoto. net)という別サイトの運営では、建築家の方々が求人情報を告知するサポートを手掛けています。このように、建築家のためにウェブを駆使し、様々な情報を提供したり取り扱ったりすることに人生を捧げています。

この書籍のフレームワークと使い方

この書籍は、そうして私が日々のウェブ発信のなかから得た知識や情報との向き合い方などを、建築家の皆さんに役立つように整理し、まとめた1冊です。大きく分けて三つの章で構成されています。

1章では、建築系ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」を立ち上げ、現在の規模に成長させるまでの個人的な経験の紹介と、そのなかで気づいた、建築家がウェブで発信すべきことを説明しています。

2章は理論編として、ウェブ発信を行う際におさえておきたい原則的な考え方を紹介しています。ウェブ上にはFacebook やTwitter に代表されるように無数のアプリケーションやサービスがあり、仕組みや使い方もそれぞれに異なります。しかし、ウェブ上のほぼすべてのコンテンツが、テキスト・画像・動画の組み合せで成り立っていること、そして人間が発信し、人間がその情報を受け取るという構造上、すべてに共通して応用可能な基本的な考え方が存在します。
理論編では、それを理解してもらうことで、読者が、実際にウェブで発信する内容や、どのような切り口で、自身の活動を発信すればよいか考えられるようになることを目的としています。そうすることで、この先ウェブ上に新しいツールが生まれたとしても、その思考法をもとに適切に発信することができるからです。

3章の実践・分析編では、実際にウェブを使いこなしている建築家に焦点をあて、その発信方法を具体的に分析・解説していきます。
ウェブを、自身の建築理論と社会を接続させる手掛りとする方、建て主とつながるツールとして活用する方、都市部を拠点として、あるいは地方で活用する方。様々な目的・地域でウェブを上手く活用している9人の実践者を取り上げました。これらの多様な発信のあり方を読み比べることで、自身のウェブ発信のヒントを得られるでしょう。

また、理論編と実践・分析編は、各項目末尾に記載された「タグ」で関連づけられています。理論編の中で特に気になる考え方があれば、関連する3章の建築家分析に移動し、より理解を深めることができます。また、建築家の分析から理論編に戻り、そのエッセンスを再確認することもできます。ただ直線的に読み進めるだけでなく、読者の皆さんがより理解を深め、楽しみながら学べる仕組みを考えました。

この本が、皆さんが試みるウェブ発信の一助となることを願っています。

2018年1月 後藤連平

「建築」と「建築家」をサポートするために

学生時代、「建築」と同じくらい「インターネット」にも魅了されました。そして、直感的に大きな可能性を感じ、またそれを信じ続けてきました。

すでにネットを使い「ウェブ発信」されている方には、よりウェブを適切に使用できるように、未だウェブを使用していない方には、その可能性が伝わるような執筆を心掛けました。

執筆中、ふとアーキテクチャーフォトの最初の投稿がいつだったのかアーカイブを見てみたところ2007年5月に最初の投稿がありました。この書籍を執筆している2018年1月時点で約10年の年月が経っていることになります。

今振り返ってみても、この10年間は、危機感を背負いながらの独学と試行錯誤の連続でした。「建築の世界でどうしたら生きていくことができるだろう」それを常に考え続け、自分自身の居場所を探し続けました。10年間もがき続けた結果として、この書籍を刊行できたということは、何とかその場所に近づくことができたのかなという気もしています。

私が社会に出た2004年と比較し、建築の世界の状況は大きく変わっています。建築家が建物を設計するだけでなく、新しい活躍の場を求めざるをえない状況もあります。それはたしかにネガティブな側面もありますが、建築の領域が拡張している状況と、ポジティブにも捉えられるはずです。そんな現代を生きる建築家にとって、「ウェブ」を適切に活用することは、どのような建築家にとっても、大きな武器になってくれます。建築系ウェブメディアというフィールドで10年挑み続けた私の知識やノウハウは、そうした領域の拡張にきっと役に立つのではないかと思っています。

今回の、3章執筆に関しては、9人の建築家の皆さんと分析執筆の後、それぞれ対話をしました。以前からそのウェブ発信に注目してきた建築家の方たちでもあるので、私にとっても改めてウェブの可能性を認識することができた意義深い学びの機会でした。
それぞれの建築家によって、見ている世界や目指すところは異なっています。しかし、すべての建築家に共通する特徴を見出すこともできました。それは次の三つに集約されます。

  • 自身の価値観を信じつつも、全く逆の価値観についても把握し理解しようとすること
  • 建築作品だけでなく、自身の周りのものすべてを、同じ哲学によって扱うこと
  • 常に社会の動きに敏感になり、自身の活動を相対化し、変化し続けること

私は、これらの姿勢に非常に共感します。そして、この姿勢が「ウェブ発信」において重要であると同時に、建築家としてこれからの社会を生き抜いていく際にも重要な姿勢だと感じています。

建築家にとって、社会の動きに敏感になり変化し続けることが重要だと書きましたが、私自身の活動も、常に変化させていきたいと考えています。これまでは建築メディア「アーキテクチャーフォト」とそれに付随するウェブサイトの運営を主たる活動としてきました。現在は、これをより発展させることに加え、さらに、直接的に建築家の皆さんの役に立てるような活動形態を模索しています。自身が魅了され続けている「建築」と「建築家」をサポートするために今後も努力を続けていきたいと考えています。

本書が建築家の皆さんにとって、ウェブを使いこなすヒントやきっかけになればこれほど嬉しいことは
ありません。ぜひ、自身の目的を達成するためにウェブを活用してください!

2018年4月 第1版第1刷正誤情報

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